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相続税にも基礎控除、配偶者控除が適用される?併用も可能?

August 23, 2023

相続税

今回は、基礎控除と配偶者控除は併用できるのか?について解説させていただきますが、その解説をするにあたり、まず、相続税で配偶者はどんな点に気を付けるべきか?をお話していきます。

「配偶者は相続人の一人として遺産の一部を受け取ることができる」

これは当たり前の事実ではありますが、配偶者が遺産を受け取る際、相続において優遇されるべき点、気を付けるべき点がわからないという方は意外に多いのです。また、子どもの立場からもメリット・デメリットを確認しておくことで、遺産分割の話し合いがスムーズに進むケースもあります。

以下、本文では、配偶者は相続についてどのような優遇措置があるのか?も含めて、基礎控除、配偶者控除を詳しく解説、そして二つの控除は併用できるのかについてもじっくり説明していきます。

 

 

1.配偶者は相続税を軽減するための優遇措置がある?

相続人として遺産を受け取る際には、相続税が課税されます。相続税は、遺産の総額および相続人の人数に応じて計算されますが、その際の相続税の税率は一定ではなく、相続する遺産の額に応じて高くなっていく「累進課税制度」となっています。そのため、相続人の人数が少なく、相続財産の評価が高いほど、相続税の負担も大きくなります。ただし、配偶者については、以下の理由から大きな控除枠が設けられており、相続税の負担が大幅に軽減されます(配偶者の税額軽減)。

 

    ・被相続人が亡くなった後の配偶者の生活保障のため

    ・被相続人の財産の維持形成に配偶者も貢献しているため

    ・同一世代間の財産移転であり、つぎの配偶者の相続まで期間が短いと想定され、再び相続税が課されるため

 

配偶者の税額軽減とは、配偶者が遺産分割などによって実際に取得した遺産額が、

①1億6,000万円

②配偶者の法定相続分相当額

のいずれか多い金額までは配偶者に対して相続税を課さないものとする制度です。

これにより、配偶者が取得する相続財産については1億6,000万円までは相続税がかかりません。

 

例えば、夫が1億円の財産を残して亡くなり、妻が全額を受け取ったケースでは、妻は配偶者控除を適用することで、相続財産の全額が非課税となり、相続税額はゼロとなります。

 

2.配偶者の税額軽減を適用する際の注意点

このように、配偶者の税額軽減は、配偶者にとって大きなメリットですが、注意すべき点もあります。夫または妻が亡くなった時(一次相続)に相続税額を安く(少なく)しようと配偶者控除を最大限利用し、妻または夫が多くの財産を相続した場合、財産を相続した妻または夫が亡くなった時(二次相続)の相続税の負担が重くなることがあります。妻または夫が亡くなった時(二次相続)には、配偶者の税額軽減は適用できませんし、基礎控除額の計算の基礎となる法定相続人の数も減り、基礎控除額も減るからです。結果として、一次相続と二次相続の相続税の合計額が増えてしまう可能性があります。一次相続では、二次相続のことも考慮して、遺産分割を決定しましょう。

 

なお、配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。ただし、相続税の申告書または更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。

 

3.配偶者の税額軽減を適用する場合の手続き

税額軽減の明細を記載した相続税の申告書または更正の請求書に戸籍謄本等のほか遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えて提出します。その際、遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)も添付する必要があります。

 

相続税の申告後に行われた遺産分割に基づいて配偶者の税額軽減を受ける場合は、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求という手続をする必要があります。

 

また、配偶者控除を受けることによって納付すべき税額が「0円」となる場合でも、相続税の申告書の提出は必要です。配偶者控除を適用することで納税額が「0円」となる場合には、税務署への申告書の提出を忘れないようにしましょう。

 

4.配偶者の税額軽減が適用される「配偶者」とは?

配偶者の税額軽減の適用を受けられるのは、戸籍上の配偶者に限られます。婚姻期間についての定めはありませんので、たとえ婚姻期間が1ヶ月でも、1日であっても相続税の配偶者控除を受けることができます。

配偶者の税額軽減は、妻に限らず夫にも適用できますから、夫が先に亡くなったときは妻に、妻が先に亡くなったときは夫に適用できます。

しかし、籍を入れてない場合には配偶者の税額軽減の適用を受けられませんので、長期間生活を共にし、事実上婚姻関係と同様の関係にある場合でも戸籍上の配偶者ではない内縁の妻などは、配偶者の税額軽減の適用を受けることができません。

 

なお、内縁関係にある夫・妻は、法律上の配偶者ではないため、当然、法定相続人になることはできませんが、遺言により、内縁関係にある夫・妻に対し財産を遺贈する旨が記されていれば、遺産を受け取ることができます。ただし、前述のとおり配偶者の税額軽減が適用されないだけではなく、小規模宅地等の特例、生命保険金等の非課税限度額、障害者控除の適用が受けられず、さらに相続税は通常の税額の1.2倍(2割加算)となります。

 

・配偶者が遺産分割前に亡くなってしまったら?

配偶者の税額軽減は、配偶者が被相続人の遺産分割前に亡くなってしまった場合でも、他の相続人等との協議によって、配偶者の取得する財産を明確にすることで適用することができます。

 

5.相続税で基礎控除と配偶者控除を併用はできるのか?

遺産に係る基礎控除は、相続税の課税価格から差し引くことができる控除額で、3,000万円+相続人の数×600万円です。「相続人の数」とは実際にその相続人が財産を相続したかどうかを問わず、相続の放棄があった場合にもその放棄がなかったものとして相続人の数に入れます。

課税価格が基礎控除以下の場合には相続税は課税されず、申告も不要です。

 

基礎控除は相続税を計算するに当たって必ず考慮されるものあり、適用されないということはありえませんから、相続税の基礎控除と配偶者控除は当然に併用することができます。

 

6.配偶者控除を適用した場合の具体的な計算例

相続税の税額を計算する流れは、次のとおりです。

  1. 相続財産の評価額から債務、葬式費用を差し引き、3年以内に贈与された財産があれば加算して、課税価格を求めます。
  2. 1で求めた課税価格から基礎控除額(3,000万円+相続人の数×600万円)を控除して課税遺産総額を計算します。
  3. 法定相続人が法定相続分を相続したとして、各人の法定相続分に対する税額を計算します。
  4. 3で求めた各人の相続税の合計額(総額)を、実際に取得した遺産の割合に応じて負担します。
  5. 配偶者の取得分については、配偶者の税額軽減を適用して配偶者の税額を確定する。

 

【例】

亡くなったAさんの遺産総額は5億円(債務等は考慮済みで、3年以内の贈与および相続時精算課税制度を利用した贈与はありませんでした)で、配偶者Bさんが3億円、長男Cが1億5千万円、長女Dが5千万円を相続することになりました。法定相続人は、配偶者Bと長男C、長女Dのみで、相続の放棄をした相続人はいません。

 

  • 課税価格=5億円
  • 遺産に係る基礎控除後の課税価格の合計額

  5億円-(3,000万円+600万円×3)=4億5,200万円

  • 相続税の総額

(1)法定相続分に応ずる各人の課税価格

  配偶者B:4億5,200万円×1/2=2億2,600万円

  長男C:4億5,200万円×1/2×1/2=1億1,300万円

  長女D:4億5,200万円×1/2×1/2=1億1,300万円

(2)法定相続分に応ずる各人の相続税額

  配偶者B:2億2,600万円×45%-2,700万円=7,470万円

  長男C:1億1,300万円×40%-1,700万円=2,820万円

  長女D:1億1,300万円×40%-1,700万円=2,820万円

(3)相続税の総額

  7,470万円+2,820万円+2,820万円=1億3,110万円

  • 各人の相続税額

  配偶者B:1億3,110万円×3億円/5億円=7,866万円

  長男C:1億3,110万円×1億5,000万円/5億円=3,933万円

  長女D:1億3,110万円×5,000万円/5億円=1,311万円

  • 相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に、暦年課税で取得した財産を、相続税の課税対象に加算した場合、対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除します。
  • 配偶者の税額

  配偶者Bの取得した財産(3億円)が法定相続分(2億5,000万円)を超えているから、配偶者の税額軽減額は、配偶者の法定相続分に応ずる課税価格を基にして計算します。

  7,866万円-(1億3,110万円×2億5,000万円/5億円)=1,311万円

 

8.配偶者控除以外の配偶者の優遇措置

配偶者が遺産を受け取る際の優遇措置は、配偶者控除だけではありません。

亡くなる(相続開始の)直前に居住していた土地等(特定居住用宅地等に該当する宅地等)の評価を80%減額(限度330㎡)することができる「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)」は、配偶者以外の人が相続する場合には、「相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。」など、それぞれに掲げる要件に該当する必要がありますが、配偶者には「取得者ごとの要件」はありません。

 

まとめ

配偶者控除は、夫または妻が亡くなった後の配偶者の生活保障等、重要な役割があり、非常に大きな節税効果がありますが、活用方法を間違えてしまうと、かえって税負担を大きくすることもあることが分かっていただけたと思います。

遺産分割の前には、一次相続だけではなく、二次相続についてのシミュレーションもして、分割方法を検討することをおお勧めします。たとえ、遺言書があったとしても、相続人の全員の同意が得られれば遺言書とは異なる遺産分割をすることが可能です。シミュレーションの結果、遺言書どおりの遺産分割をすることでデメリットが生じる可能性があるのであれば、相続人間で話し合い、遺産分割方法を決めましょう。

生前贈与や生命保険、不動産(土地・建物)を活用した対策が生前にできていない場合でも、亡くなった後の遺産分割の方法を工夫することで、節税できる可能性もあります。

 

相続税の計算や遺産相続手続きは複雑ですから、申告期限まで時間が少なく「間に合わなそう」、相続人間(家族、子供同士、兄弟姉妹間)の「トラブルを避けたい」、作成する書類が多く「とにかく大変そう」「納税が多額になりそうで(いくらになるか)心配」などの場合は、税理士など専門家に依頼・相談することをおすすめします。

増田浩美税理士事務所では、事前の相続対策から、実際に相続が発生した際の各種手続きまで、ワンストップでサポート・対応しています。親しみやすく経験豊富な女性税理士が、 お客様の立場に立ち、丁寧かつ最適なアドバイスをさせていただきます。全国どこからでもご相談可能です。まずは「話を聞いてもらおう」というような気軽なお気持ちでご相談ください。

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